短歌ドリル ―死にたがりの執着―

1. 人ごみに研ぎたての刃物はあふれ刺さり刺さり行く春の道だよ

2. 黒い岩を抱いて冷えいる死火山の最後ふるえる　平地になりたい

3. 「どうしたの」を上手に避けるその道が導火線だと知らない人よ

4. 夭折の作家思えば私などのとるに足らない火よ燃えてあれ

5. 黒服の男が駅の階段でこっちを見ている　死にたくないよ

6. 二本ある腕時計の電池が二つ同時に切れた　死にたくないよ

7. 無造作にダストシュートに落とされる夢、ゆめ、ゆめだ死にたくないよ

8. 花屋では陳列されたなまくびの（死にたくないよ）（そうでもないよ）

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8首。執着。

短歌ドリル ―鮭おにぎり―

1. 左手を壁に沿わせて進んだら迷わず行けるだろうか、幸福

2. 生き方のドリルがあれば百点をとれるまで解く地獄のように

3. まち針を前頭葉に突き刺していっそデブリになりたい星だ

4. 愛しさがふと空を切りまたたきに映るサブリミナルのさよなら　（改作）

5. 何もかも立ち上がれずにいた時を忘れないあの鮭おにぎりを

6. 誰だってひとつくらいは知っているだろう忘れられないおにぎり

7. ナイフという名で呼ばれればおそれずに黒曜石になる疚しさは

8. 神経のように震えて降りてくる土に届いてもう終わったな

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8首。助けてくれた味。

短歌ドリル ―ワンルームプリンセス―

1. 交替で夜伽をなさい王国のベッドの上のぬいぐるみたち

2. 猫足のあかい組み立てテーブルで楚々として食むプリンの歯ごたえ

3. 魔女の棲む城の東の塔の上のワンルーム家具付きの牢獄

4. たえまなくこれでいいのと問いかける鏡はすべてシフォンで覆え

5. 逃亡の罰は重くて眩しくてこわくて痛い日光の下敷き

6. 午前二時見張りは少し眠たくてひそかに月を覗いてもいい

7. 増えていく虫歯のうずきだとしても砂糖菓子しか消化できない

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7首。ひきこもりの星。

短歌ドリル ―寂しい街―

1. 白梅は空に浮かんでまたひとつ寂しい町になってしまった

2. ぶらんこの鎖はうずく海風がその頂点を浸した夜に

3. 人肌の温度の闇と馴れ合って迷子ごっこが終わらない春

4. ある日ドアを開けた時から風と木と太陽と雲とビルの共鳴り

5. 好きすぎて手放したものにもう一度さわってみたくなる季節です

6. 髪に触れる指がはさみを探しつつ時おり迷うあのかばんが好き

7. 話す君、食事する君、愛する君のうえにサブリミナルのさよなら
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1．はまどみちおさんへの挽歌として。

短歌ドリル ―まっくらやみに―

1. 「洗たくは自分でする」と丸っこい字でぼくたちはいっしょに住もう

2. iPhoneのことをコドクと呼んでみる人差し指の長さちょうどの

3. 頑なに傘をささない子のためにサトイモの葉を探しに行った

4. 二年間たんすにしまいきりだったあのスカートを穿くのは今だ

5. 引き金を引くのはこころ電球に手が届かない独り暮らしで

6. 触れたいし交わりたいしそれよりも交換日記をしたい　聞かせて

7. 良いよひとりで良いよどこまでも歌うからまっくらやみに冷えた地平に

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7首。多作になりたい！