侵食

汚い感情は
肺のあたりで生まれるのでしょう
塗りつぶすように広がって
呼気と会話を染めていく

嬉しそうにあなたが
あの子の名前を口にするから
わたしからついと離れて
あの子と並んで歩こうとしたから

汚い感情は
泣き叫んだりできないでしょう
歯を食いしばって深くなる
姿勢と視線がねじけていく

あの子だったら似合うのにねと
可愛い服を見て言ったから
もうわたしはそんな服は着ない
もうわたしは可愛い服は着ない

汚い感情に
洗剤をかけても広がるだけ
肺のあたりを塗りつぶされて
きれいな言葉も品切れです
わたしは嫌な人間になりました

ぬくいろドロップス

落ちていくおひさまを追いかけて
ぼうやが走り出そうとしたとき
丸いつま先が缶にあたって
散りばめられた
色とりどりのドロップス

こっちむいて青色
そっちむいて赤色
またたいたレモン色に
止まれ　すすめ
べっこうのヘッドライト
ずらり並んだハッカの街灯
砂糖細工のネオン
ビルもきらきら笑います

するりとおひさまは逃げてしまって
ぼうやは今にも泣き出しそう
ひとみに涙のカーテン
透かしてまるで
いっぱいのコンペイトウ

ふくらんだ買いものぶくろ
手をふってさよならの頃
ふるさとを思い
ふと空を見た青年の心に
親子のつないだ手の間に
仲のよいともだちのそれぞれに
あったかい気持ち
ビルもきらきら笑います

そしていつしか夜に抱かれて
小さな寝息が聞こえ出しても
遊びつかれた子どもべや
街のあかりは消えません
街のあかりは消えません

未明

群青色の静寂　付け放しのモニタ
じれったくデフラグ
まどろむ街の上に
女神エオスの
身じろぎする肢体

光が

東の空に黄金の剣
幾億と繰り返す夜明けと等しく
残酷で不可逆なひとつの朝
天空を翔けたパエトンの
幸福を歌い

天も照覧

西暦２００８年１０月１５日

わたくしは
生きていきます



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おはよう

寝て
起きて
のびをしたら
指の先まで力が出た

「おはよう」

今日がわたしの
旅立ちの日

アンプラグド

コンセントを引っこ抜いて
自由になった
力尽きて倒れるまで
走っていくんだ

ワタシは作られた
鋳造されたカラダに無数の螺子
望みは計算済みで

アナタが組んだ回路
ワタシはけっこう好きです
カレが付けてくれたオプション
気に入ってます

加えてエネルギーは過不足なく供給

けれど今

バッテリーひとつ頼りに
夢を追うんだ
スクラップの未来でも
後悔しない

思考の底の底
プログラムの最初の“０”が
振動を始めた

寝る間を惜しんでカレが作った
両足で立てる仕組み
アナタがその手で込めた
希少金属の精神

エネルギーは不足なく充実

そして今

コンセントを引っこ抜いて
自由になった
力尽きて倒れるまで
走っていくんだ