箱

箱を燃やした
夢を詰めていた
箱を燃やした
立派になりたい
強くなりたい
願いながら
箱を燃やした

箱を燃やした
押し寄せる虚無に
そうしてから気づいた
瞬間の光輝
やがて煙も消えて
かつて夢だった
箱は灰になった

それを手に取って
しばらく眺め
庭に捨てた

この土から
いつか生き生きと育つはずの
新たな夢といのちのために
生きていくのだ

ゆかい

毎日がほんとうに楽しくて
たまりません

漫画を読みました
４冊読みました
友達と会いました
皆　いい子です

教科書を開きました
賢くなれそうでした
公園に行きました
空が青いです

果てなく青いです
よく見れば
街路樹の葉の一枚にも
いのちが満ちて
ぶらんこで笑う少年に
目を逸らす

旅行に行きました
家の前の花壇に
青い花が咲きました

毎日がほんとうに楽しくて
たまりません
（たすけて）

天地がひっくり返っても
しあわせです

刹那の恋

あなたが好き
昨日も　今日も
では　明日は？

答えられません

わたしが好き
あなたは言う
明日も好き？

そんなこときけません

訪れる朝ごとに
奇跡を知る
新たな色合いで
今日も
恋していく

未来を知らない
口に出さない
約束もない

それでも願う

恋は刹那の花

未必の故意

ずっと
君を
ころしたかった
笑顔の裏に
潜む悪意を
ブレーキ壊れた自転車に
またがり丘を落ちていく

ずっと
君を
ころしたかった
冷たい雨に
うたれて歩く
優しい言葉伸ばした手を
跳ねのけるしかない醜さを

急ブレーキで
止まるトラック
「気をつけろ」
ありがとう
ごめんなさい
生きている価値を
教えて

ずっと
君を
ころしたかった
皮肉でごまかす怠惰さを
わたしごと消してほしかった
わたし消えてしまいたかった

熱いからだに
置かれたタオル
ひんやりと
冷たい手
触れられるたびに
涙が

ずっと
君を
ころしたかった
たましいを日々
蝕む不安
ここにいていい、と知りたかった
そのままでいい、を聞きたかった

ずっと
わたし
生きたかった
いくつもの嫌いな
部分も連れて
進むたび色を変える街
ブレーキ直した自転車で
どこまでも

宇宙船

時計の針が傾いた
変哲のないマンションの
最上階のこの部屋だけど
宇宙船になって
すべりだす

まず見えるのは
はるかに街の灯
お父さんお母さんこんばんは
手を振って笑う

好きな音楽を大音量で
からだを揺らして成層圏へ
雲の海に月もさやか
電気も消せば完全世界

ひといきに　上へ
目を開けて閉じたら
眼下に青い星　60億の時間
ガラス越しの無限
闇と光

そして
愛と孤独を知る

遠ざかる故郷
もの言わぬ小さな点になる
音もなく進む宇宙船
カーテンを閉じて電気を点ける
外は星空
わたしはひとり
わたしはひとり


毛布にくるまり
泣いて眠った