出立

玄関に待っているスニーカーは
不ぞろいに並んで首を長くする
きちんと掃除機をかけた部屋は　もう　
よそよそしさを覚えたみたいだ

バックパックに先を越されて
飛び込んだ　エアポート行きの自由席
加速！加速！加速！加速！
このまま太平洋をつっきって

合言葉はうろ覚えなんだ
だけど信号は全部　青だ
髪の毛は自然乾燥さ
だけど視界はハイビジョンなんだ

行こう
いいことがきっとある
もうあとは地を蹴れば

空だ

かたみわけ

いつかそのうちわたしが死んで
押入れの中の靴箱の　押し込められた大量の
紙切れに書かれた
詩を　誰かが見つけるだろう


その人にとっては
その紙切れが理科のノートの
忘れもしない天体の授業の切れ端であっても
何の意味もないだろう
そしてそのように　書かれた文字も
ただの拙い　見るに耐えない
言葉の羅列に過ぎないだろう


それでも
破り目も汚いこの紙の上
丸っこい筆圧の強い字は
あの日わたしに突き刺さった　美しさ
初めての恋のうずき　ひとり苦悩した夜
そして新たな日への決意　見つけた手の温もり
あぁ　すべて


いつか　わたしが死んで
押入れの中の靴箱の　押し込められた大量の
紙切れの上の　わたしの
人生　誰かが見つけるだろう


それは　それは　わたしにください
昔　ヤマゴボウが健気に生えた
あの駐車場の隅で　ひっそり
燃やしてください

そうしたら　そうしたら　そっと
胸に抱くように　涙を流して
受け取ります

りんご

わたしゃもうすっかり
腐ってしまった
茶色い斑点が見えるでしょう
はらいたになりたくなけりゃ
触りなさんな


そこのあんた
あんたも気をつけるこった
ただ待ってたって
失うもののほうが多いんだ


もうすっかり
わたしゃりんごでなくなってしまった
割られて剥かれてみればよかった
閉じこもって夢を見るより
甘いみつと硬い芯
その気になればなんでもできた


そこのお若い方
わたしを土の上に捨ててくだされ
朽ちたからだで
みみずの１匹も養ってみよう


そしてあんたも気をつけるこった
時の過ぎるははやいもの
失うものは多いんだ

夕闇マーチ

夕暮れ
てきぱき喋る友達が
かぼそい声で歌ってた
解いた髪　冷たい手
れ・れ・ら・れ・ら

たそがれ
影伸びて帰り道
舌の上にはざらりと甘い
ご飯の匂い　こどものピアノ
れ・れ・ら・れ・ら

ほどける　せんりつ
すすめ　メロディー
雲は　くれない
もう　日が沈む


ゆうやみ
街灯しんしん　急ぎ足
ポケットに銀色をにぎりしめ
石畳　植木鉢　
扉を開けたら　ベルが鳴る

れ・れ・ら・れ・ら
ためいき

蛍光灯　居間は大きくて白
リモコン　チャンネル
流れ出した　音


れ・れ・ら・れ・ら
れ・れ・ら・れ・ら


「さみしい」なんて
ぼくは言わない

旅立ち

風が雲を千切って
誘われたんです
格好つけてみても
緒を付けかえる笠もなく
スニーカー１足買ってきた
熱いのは嫌いだし
ベッドの上で腹筋をした

何かが
変わるかもしれない
変わらないかもしれない
旅が
はじまる