宇宙船

時計の針が傾いた
変哲のないマンションの
最上階のこの部屋だけど
宇宙船になって
すべりだす

まず見えるのは
はるかに街の灯
お父さんお母さんこんばんは
手を振って笑う

好きな音楽を大音量で
からだを揺らして成層圏へ
雲の海に月もさやか
電気も消せば完全世界

ひといきに　上へ
目を開けて閉じたら
眼下に青い星　60億の時間
ガラス越しの無限
闇と光

そして
愛と孤独を知る

遠ざかる故郷
もの言わぬ小さな点になる
音もなく進む宇宙船
カーテンを閉じて電気を点ける
外は星空
わたしはひとり
わたしはひとり


毛布にくるまり
泣いて眠った

わかってしまえば簡単だった

人生においては
すべての一瞬がスタートであり
ゴールである

何を始めるにも
遅すぎるということはないし
何をやり遂げるにも
早すぎるということはない

そう　まさに今日を生きるために
今までの数十年を生きたのであり
次の数十年を生きるために
この時を生きているのである

扉を開けて

ひとつの扉を開けて
僕は進むよ
カチャリと音がしたら
あともどりできない

４Bの鉛筆　丁寧に明暗
クレヨンの折れた跡　ためらいがちの水彩
描く先から揺らぎだす未来図

夢に汚染された
たましいは手遅れだから
このまま

ひとつの扉を開けて
僕は進むよ
光が差し込んだら
あともどりできない
　
にじむヴィジョン　回すダイヤル
行き過ぎるデ・ジャヴ　理想は震え
１０年後にはどんな家に帰る

夢に道をなくした
たましいは前だけを見て
このまま

ひとつの扉を開けて
僕は進むよ
決断の針が振れたら
あともどりできない

西へ

朝からの雨は夕方に止んだ
宝石になったアスファルト
逆光の中にくっきりと
LEDは赤から青へ
舞い上がる花びらが輝いて
置き去りにされぬよう
西へ　僕らは走り出す

世界がこんなにきれいだ、と
生きる理由は十分だ

まぶしさに泣きながら
西へ　僕らは走り出す

春

花が咲き東風を受け
くしゃみとともに
またひとつの覚悟
春

別れは刻印
矢の如く光陰
君が女になる
春

環境変化　自己の劣化　
甘ったるい緑色の疼痛
泣き縋る時　過ぎ行く　　
春

感情に輪郭を与えよう
軽やかになんでもない顔をして
今日の次に明日が来る
春


さあ、
春。