マザー・グースの死

月を飛び越えた牝牛は
ステーキにされた仔牛のため
今日も涙と乳を流す

弱いは　みにくい
強いは　きたない

比べようもない
わたしの　色

それで　おしまい

誕生の日

歌声は天よりくだり、
どよめきが地を揺らす。

年ごとに君が赤い頬をして生まれ、
新たなよろこびと祈りをもたらすので。

そして長くなる夜の日々は終わり、
凍て付いた土の下に、
こわばった枝の中に、
うずき、まどろみだす柔らかな命。

商業主義と歓楽の祭りに、
生まれたての祝いを一筋見いだし、
わたしたちは笑う。

FAREWELL

出会いさえしないうちから
降り積もるさよなら

君の髪がふわり
硬直する永劫

君と僕とはすれ違う

君のスカートひらり
凝集する神秘

言葉さえ交わさなくとも
僕らは根源の兄妹である

変身

ウミウシになりたい、
いっそ

愛は国境を越えるって、
もっぱらの噂だけれど、

国境より早く、
愛はあったじゃない？

愛はお金では買えないって、
もっぱらの噂だけれど、

お金より早く、
愛はあったじゃない？

だけど実際、
愛よりも速くかろやかに、
お金が国境を越えてく

ああ汚い空気、
つらくて、
生きれない、
というわけでもないけど、
つらくて、
生きたくない

ウミウシになって、
泡の中で笑いたい

看板

看板を蹴った
むしゃくしゃして
ざわざわして
邪魔だった
看板を蹴った

看板を蹴った
幼い頃だ
風雨にさらされ
犬の小便がついた
古い看板を蹴った

看板を蹴った
たった一度のことだが
寡黙に役目を果たしていた
かわいそうな看板を蹴った

荷物を持って出歩くと
道に張り出したそれらが
つま先や横腹に衝突し
肩紐をひっかけて邪魔をする

遠い思い出に対する
ささやかな報復のつもりなのか

あの
古い看板より
役立たずだった自分は
身を縮めてそれでも歩くばかりだ