モモ

彼女はじっと座って
わたしに耳を傾けている
はるかな過去から

いつも　いつも

はるかな過去を探り
語りかけるわたしの心に
そうして静かな力が満ちる

女

浴槽に漂う長い髪が
自分のものだと２秒後に気づいた

ついぞ知らなかったが
嫉妬で髪は伸びるらしい

手紙

わたしの一番大切な友達であるあなたへ、
最初で最後の
お誘いをします。

バックパックひとつに
動きやすい服
ナイフとロープとライターと
魔術指南書をつめこんで

いっしょに行きませんか
乾いた草、冷たい風
はるかな山、小さな川を越えて

黒い翼の鳥が
わたしたちを呼んでる
握りしめた金のたてがみ
躍動する背骨を感じながら

いっしょに行きませんか
蒼いひとみ、剣の束飾り
褐色の腕、かすれた声に会いに

漆黒の闇と星が
わたしたちを手招く
光なき夜を照らす
篝火の光と熱

むせ返る緑といのちの匂い

そしていつまでもあなたの右側にわたしが
わたしの左側をあなたが
互いの背中を互いが守れるように


・・きっとあなたには届かない、
最初で最後のお誘いです。

おかわりドリンク

１
午前３時のファミレスの
黄ばんだ光が目に沁みる

ピンクレモネード

悲しいのです
悲しいのです

甘くはじけて頬が痛い


２
優しい声に顔をあげ
作り笑いにつられ笑い

宇治緑茶（ホット）

悲しいことでした
悲しいことでした

なつかしい苦味が慰める


３
手を洗ったらドライヤー
暖かさなら補給ずみ

赤いハーブティー

悲しかったことと、

取り出し忘れのティーバッグ

ああ、やっぱり悲しいことと


４
まわりのお客もいれかわり
おしりが痛くなった頃

カルピスソーダ

大丈夫です
大丈夫です

“ありがとうございました”

夜明けの空気は清澄です

遭難しよう

遭難しよう
あなたとわたし
白いヨットで

時の終わりまで漂おう？
夢のおくつきまで行こう

日が昇り月が巡り
波の間に間に
掌を重ねよう

帆布をシーツにして
わたしのからだを食べていい
わたしの涙を飲んでいいから

遭難しよう
白いヨットで
わたしとあなた
ふたりっきりで