日々

結んだ唇の奥で
言葉が響きだした
まだ何もしていないって
夢が叫んだんだ

遠くで死んだ誰かのたましいに叱られて
逸らした視線の先で猫が僕を見てた

―ひっくり返したくずかご

自転車に乗るように
ぼくは謝る
歯を磨くように
ぼくは笑う
ぼくは生きる
穴を掘るように
あきらめのような
期待のような　日々

噛んだ唇の奥で
言葉が暴れだした
まだできるはずだって
けしかけられた

光に向かって飛ぶ羽虫の激励
まばたきし目をこすれば朝の気配
　
―走り書きのメモの中の

手を伸ばすように
ぼくは話す
絵を描くように
ぼくは歩く
ぼくは生きる
木を植えるように
幼い希望と重なり合う
今の喜び　日々を

―水たまりの底の空の青さ

ぬいぐるみのクマに関する責任のうた

あの子の持ってるあのクマは
幸せそうな顔しているよ
なんだか笑っているようだよ
服も着せてもらってないし
肩のあたりがすりきれているのに

わたしの持ってるこのクマは
幸せそうには見えないの
空っぽな目をしているの
頭には麦わら帽子
カメラとトランクも持っているのに

わたしのことはいいのです
ひとりで生きていけるのです
でもあのたくさんのクマの中から
この子を選んだ責任の一片
あなたにある気はしませんか

最後のデートで出会ったの
ちょっと生意気な顔してた
写真も撮ったし一緒に旅した
とても幸せなクマだったのに
抱きしめても手をとっても
くたりと従うばかり

わたしのことはいいけれど
寂しさは時が埋めるけれど
誰もいない昼下がり
泣いてるクマのぬいぐるみ
この子をどうしたらいいだろう

夜更けのハミング
ふたりのさよならのかなしみと
何も罪ない小さなクマの
運命に関する責任のうた

きいろいとり

あなたはきいろいとりだった
あなたがいるから
せかいがあった

すべてのいろとかたちは
あなたからうまれ
すべてのうごきは
あなたのつばさのひとうちにはじまった
すべてのよろこびは
あなたのまなざしからあふれ
すべてのかなしみは
あなたのことばから

そしてときのながれ
きょうときのうをつらぬき
すべてのいのりは
あなたへとむかっている

きいろいとり
だけどふしぎだ
あなたはいってしまったのに
せかいにはあいかわらずあしたがくるんだ


（谷川俊太郎「黄色い鳥のいる風景」へのオマージュ）

ラッシュアワー

改札機の絶え間ない羽ばたきが
透き通る空をあたためている
銀色の矢のように電車が到着し
祝福の鐘が鳴り響く

挟まれ、揺さぶられ
先の見えない
それは戦いだけれど
知っている
空が青いこととも別の次元で

感謝を！

こんなにも多くの人が
この朝を歩き出そうとしている

弱くしわくちゃなわたしの夢も
そしてゆっくりと翅をひろげる

にちようの

にちようの夜の電車にほがらかな「さよなら」明日も生きねばならぬ